人々が我先にと逃げ出した商店区に、竜斗は一人で残っていた。無論、戦うために。 「エスペリオン、なんかまた新しいのが出てきたぞ」 『そのようだな、飛行能力を持った邪鬼などワタシも初めてだ』 既に木刀を紅竜刀へと変化させてひと気の無くなった商店区の道に立つ竜斗が、鞘から刃を解き放ち幻獣を召喚する。 「出し惜しみしてる余裕もなさそうだ、一気に行くぜ!! エスペリオンッ! ドラグーンッ! 鎧竜合体ッ!!」 『心得たっ!!』 『グオォォォォッ!!』 竜斗の立つ地面から2体の竜が飛び出し、上空で紅き竜の戦士へと合体する。 『「ローォドッ! エスペリオォォォンッ!!」』 大きく翼を広げたロードエスペリオンが、上空を旋回する謎の邪鬼へと突撃する。 『ロードセイバーッ!』 愛刀・ロードセイバーを構え、その刃は邪鬼の姿を捉え・・・・ 「何ぃっ?!」 『くぅっ?!』 ロードセイバーが邪鬼を捉えたかと思われた瞬間、邪鬼の姿がその場から消え尚且つロードエスペリオンの身体が突風に見舞われ弾き飛ばされる。 「あの邪鬼、身体はこの間炎狼鬼が使った鎧鬼とかってのに似てるぜ」 『ああ。だが腕の変わりに巨大な翼を装備する事で、音速を超えた飛行を可能にしているようだ』 そう、この鎧鬼は腕の変わりに翼を持つ、所謂ハーピーの様な姿をしている。 その速度は目で追う事さえ難しく、音速を超えた速度である事は間違いない。 つまり、ロードエスペリオンを弾き飛ばしたのは、超音速衝撃波(ソニックブーム)なのだ。 『どうやら邪鬼界は、独自の技術と文明を手に入れつつあるようだ』 鎧鬼のあまりもの速度に攻撃のタイミングが掴めず、苛立ちが竜斗の中に溜まってゆく。 『他の幻獣と連携して捕らえるしかないだろう』 「だよな、それまでは時間稼ぎって訳だ!!」 やる事が決まったとばかりに、竜斗がロードエスペリオンの力を胸の竜へと集中する。 「ロードエスペリオンッ!!」 『おうッ!ドラグーゥン!フレイムッ!!』 再びソニックブームで攻撃しに来た鎧鬼に対して、ロードエスペリオンの胸の竜が炎の衝撃波を放つ。 「どうだっ!」 間違いなく直撃のタイミングで放った攻撃に、自信満々にガッツポーズを決める竜斗。 だがその表情は次の瞬間に、あっという間に崩れ去った。 『2体目・・・だと?!』 上空から飛来したのか、炎狼鬼の牙狼鬼兵よりもがっしりとした体付きの鎧鬼がロードエスペリオンと翼の鎧鬼の間に割って入っていたのだ。 ロードエスペリオンの放ったドラグーンフレイムは、その本当に鎧の様な鎧鬼の装甲の前に無力に掻き消えていた。 だが鎧の鎧鬼に飛行能力はないらしく、直ぐに街中へと降下して行く。 「ってオイっ!? あんなの放っといたら、街が滅茶苦茶にされちまうぞっ!?」 ただでさえやり難い相手が、二つの戦場に分かれてしまう。 竜斗の背中に、全身が冷えてしまうほどの嫌な汗が流れる。 鎧の邪鬼が地面に到着した重い着地音、しかしそれと同時に凄まじい轟音が轟く。 『地上の邪鬼は私が! ロードエスペリオンは上の邪鬼をお願いします!!』 「お兄ちゃん、遅れてゴメン! コイツはアタシが抑えるから、先に碧とそっちをお願い!!」 街から聞こえてくる黄華とシードユニコーンの声に、竜斗の不安が若干和らげられる。 「大丈夫ですか、竜斗さん」 『ハァイ、お待たせ♪』 下に気を取られ動きの止まったロードエスペリオンを、再び襲い来るソニックブームから護る碧とシードペガサス。 『すまない、助かった』 「けど強敵だ、連携攻撃で行くぜっ!!」 援軍により士気を取り戻した竜斗が、刀を構え直し翼の鎧鬼へと向き直る。 「ペガサスさん、フェザー射出です」 『オッケー、アクセル! アタック! 行っちゃえーっ!!』 シードペガサスが射出したフェザーが、それぞれロードエスペリオンの翼と武器に吸い込まれる。速度と攻撃力を上げたのだ。 「いぃぃけぇぇぇっ!!」 ソニックブームを放つため三度突撃してくる翼の鎧鬼に、タイミングを合わせたロードエスペリオンがロードセイバーを振るう。 だがまだ速度負けしているらしく、寸での所で急所を避けられてしまう。 『飛行型でも装甲は変わらないのか、ただ攻撃しただけでは効果が無い』 ロードセイバーを伝い感じた装甲の硬さに、ロードエスペリオンが苦虫を噛み潰したような声を出す。 『ぐぁぁぁぁっ!?』 「きゃぁぁぁっ!?」 地上へと視線を移せば、鎧の鎧鬼に投げ飛ばされるシードユニコーンの姿が。 やはり見た目通り、防御力とパワーを重視した鎧鬼のようだ。 運動性を得るために他の幻獣勇者よりも装甲の薄いシードユニコーンにとっては、かなり酷な相手である。 「っ!? この気配はっ!!」 地上へと意識を向けていた竜斗が、別の気配に空を仰ぐ。 竜斗の視線の先、遙か上空に境界の反発が生み出す黒雲が発生していた。 そこから感じる無数の邪鬼の気配に、幻獣勇者達がゾクリと寒いモノを感じる。 「ウグガァァァァァッ!!」 「コロスコロスコロスゥ!」 「ゲンジュウゥ、ミナゴロシィィッ!!」 そんな地獄から響くような叫びを上げ、次々と邪鬼が地上へと降りてゆく。 意図してか本能か、その間は翼の鎧鬼がロードエスペリオン達の行く手を阻む。 「クソっ! このままじゃ街がっ!!」 圧倒的な速度と驚異的な装甲、そして絶望的な物量。 新たに現れた邪鬼達は、幻獣勇者の勝利への希望を次々と奪ってゆく。 竜斗達はそんな中で、勝利への糸口を見出せずに、ただただ体力を消耗していくばかりだ。 『竜斗、こうなれば一体ずつ確実に倒していくしかない』 ソニックブームに耐えながら苦し紛れの打開策を口にするロードエスペリオン、しかしそれは最も危険な戦い方でもある事は、この場の誰もが理解していた。 「それしか方法は、ねぇみてぇだな。碧、まずはあの鳥野郎だ! 手ぇ貸してくれ!」 竜斗に応え、碧はソニックブームが止んだ一瞬に次のフェザーを射出する。 「はい、フェザー射出します!」 「うおぉぉぉぉっ!!」 現代の幻獣勇者の今まで経験した中で、最も過酷な戦いはこうして幕を開けた。 商店区一帯で竜斗達が戦っている頃、鏡佳達双御沢兄妹は学校区の地下に建設された地下シェルターへと非難していた。 学校区の地下一面に広がるその空間には、他にも八雲学園の市民が大勢避難してきている。 「安心しろ鏡佳、ここに居ればアレに関わる必要はない」 不安そうに表情を曇らせる鏡佳を安心させようと、空弥がそっと手を握ってくれる。 「・・・兄さん・・・・」 空弥のそんな心からの優しさに、鏡佳の不安が僅かに和らげられる。 確かにこのシェルターは安全だろう。何せ同じ街の中で戦闘が起きているにも拘らず、その音も振動さえ伝わってくることはない。 恐らくは大災害に備えて、特殊な構造で造られているのだろう。 これだけの設備なら、確かに外で何が起きていようと事が済むまで隠れていられる。 そう、ここなら全て知らないフリをして、何もしないでただ終わりを待つことが出来る。 だが、何もしないで見ているだけの自分、何も出来ないで護られるだけの自分。 かつて寝込みがちだった鏡佳には、それが堪らなく辛かった。 (ただ待っているだけなんて、何もしないなんて嫌だ・・・・) そして鏡佳は、最近見るようになった不思議な夢のことを思い出した。 それは姿の見えない誰かが鏡佳の望みを訊ねてくる、非現実でだが現実感を伴う夢だった。 勿論鏡佳は獅季に会うことを望み、そのために必要な力が欲しいと願った。 もし、獅季が鬼≠ノよって姿を消したなら、鬼≠ノ関わる事で何かを得られるかも知れないとも考えた。 その考えを知られたのか、その気配を悟られたのか、空弥は鏡佳を確実に戦場から引き離していた。 その所為かそれとも別の要因か、戦場には獅季に関する手掛かりがあるような気がして仕方がない。 普段は直感なんてモノは感じないのだが、こればかりは鏡佳の中で根拠の無い確信となっていた。 (あそこには、神埼先輩がいるかも知れない・・・・) 『ならばお前は、いったい何を望む』 思考が回転する事で意識の深くに潜っていた鏡佳は、気付けば何処とも知れない真っ暗なだけの空間に立っていた。 (・・・ここは・・・夢と同じ・・・・) それはあの不思議な夢と同じ、誰かの声と自分だけが存在する世界。 『お前は何を追い、何を求める・・・・』 何もない真っ暗な空間、その中にぼんやりと大きな光が浮かび上がる。 それは鏡佳の前で静止し、その中から巨大な獣が姿を見せる。 猛禽類を思わせる嘴を持つ頭部、鋭い爪の伸びる四本の脚、猛獣の様なしなやかで強靭な身体、そしてその背から広がる大きな翼。 (グ・・リ・・・フォン・・・?) そう、それは見上げるほどに巨大な、そして実在しない幻想生物、グリフォン。 『我はシードグリフォン、何かを追い求める℃魔望む夢から生まれた幻獣だ』 幻獣・シードグリフォンから感じるのは、その巨躯からは信じられないような安心感。 故にこの未知の存在を目の当たりにしても、鏡佳は普通に会話する事が出来た。 (あなたが、私にあの夢を見せていたの?) 『あの夢はお前が望んで見たのだ、我はただお前の意思に応えたまで』 鏡佳を見下ろすシードグリフォンは、何かに感付いたのか急に鏡佳の後ろへと視線を移した。 『この世界に他者が立ち入るとは・・・・、何者だ?』 (鏡佳は関係ない、失せろ) シードグリフォンの視線の先、そこにいたのはなんと空弥であった。 本人とその幻獣でしか存在する事の出来ない精神世界に、どうやったのか空弥は姿を現したのだ。 (鏡佳、お前が戦う必要はない。こんなコトは奴等が好きにやっていればいい) 鏡佳の許に寄りその肩に手を掛ける空弥、その表情は心なしかいつもより厳しい。 だが今の鏡佳も、その程度では退かないだけの決心が生じていた。 (ごめんなさい兄さん、必要とか、そうじゃないの。私が、私自身が望んだ事だから) 辛そうに、それでも確かな意志を以って空弥に告げる。自分の意志を、戦う意志を。 「お願い、シードグリフォン。私に戦う力を、自分で走る力をっ!」 鏡佳がシードグリフォンと空弥に交互に見つめ、答えを待つ。 『我は主の意志を承諾した。さぁ主・鏡佳よ、我に主が望む形を・・・・』 「待てっ!!」 契約を始めたシードグリフォンを、空弥の声が遮る。 「鏡佳が戦う事を望むなら、俺も付き合せてもらおう」 シードグリフォンを睨むようにして見つめる空弥、その瞳からは鏡佳を護るというたった一つの意志が伝わってくる。 『この世界に入れるならば、お前は自らの幻獣を宿しているはずだ。それでも我と契約すると言うのか?』 空弥の真意を知るためか、シードグリフォンは空弥に問う。 「俺は、何時如何なる時でも傍で鏡佳を護ると誓った。そのためにはコレが最も効率的だ。俺は鏡佳を独りにはしない」 『主・鏡佳よ、それで構わぬか』 空弥の心を、本当の優しさを感じた鏡佳に、それを否定できるはずも無かった。 「ごめんなさい、また私の我侭で・・・・」 「気にするな、お前に我侭をさせるのが、俺の望みだ」 そこでようやく、空弥の表情が優しくなる。 それこそが、本来の空弥なのだ。ただそれを他人に向けることが出来なくなってしまっているだけなのだ。 『では主・鏡佳、主・空弥よ、我に主の望む形を・・・・』 シードグリフォンの呪文に、二人の脳裏にそれに応える呪文が浮かび上がる。 「「夢に生まれし天地の王よ、我等を乗せて全ての天地を駆け抜けよっ!!」」 二人の呪文にシードグリフォンが光となり、空弥の右足に、鏡佳の左足に、爪先に鋭い爪を持つ膝までを覆うレッグガーターが装備される。 「「幻獣招来ッ! 駆けよ天地の王者ッ!!」」 学校区のグラウンド、その一つに突如魔法陣が現れ、そこから鋼の肉体を得たシードグリフォンが飛び立つ。 『どうやら苦戦しているようだな』 商店区の方で街を護り一方的に攻撃を受ける幻獣勇者を見て、シードグリフォンが大して焦った風も無く告げる。 「俺達の速さならば、そんなモノ問題の内に入らんな」 「グリフォン、私に走らせて」 自信満々に言い放つ空弥と、戦場を見据えてスプリンターの表情を見せる鏡佳。 『了解。主、夢幻一体を』 シードグリフォンの返答に鏡佳が空弥に視線を送り、互いに頷きあう。 「夢幻一体ッ!!」 二人の主と一体化したシードグリフォンは、更に上空へと高度を上げながら変形を始める。 前足の付け根のパーツが90度横に起き上がることで肩のパーツになり、爪が反転する事で人型の拳が現れる。 次に後ろ足が180度展開して胴体を延長する様に後ろに繋がり、胴体の後ろ半分がスライドして脚を覆う。 スライドしたパーツの前面から爪先がせり出し、爪を踵にした人型の脚部へと変形する。 更に獣の頭部が胴体ごと90度前に倒れ人型の胸の位置に固定され、背面の翼が大きく広げられる。 そして胴体の変形によって剥き出しになった部分から、人型の頭部がせり上がりその瞳に二人の意志が宿る。 『幻獣勇者ッ! シーィドグリフォンッ!!』 唯一つのモノを追い求め、天と地を駆け抜ける三位一体の幻獣勇者が、今ここに誕生した。 「鏡佳、スタートは任せる。思いっきり走れ!」 「はい! グリフォン、合図をお願い」 『了解! レディ・・・・』 シードグリフォンの両手両足を渦巻く風が纏い、背の翼が後方に展開される。 両足を広げ前傾姿勢で右手を地面に突く様な姿勢で構える鏡佳、その瞳が正面を、戦場を捉える。 『ゴーッ!!』 それは正に一陣の風、疾風と言い換えてもいいだろう。 本当に一瞬で戦場への中心まで駆け抜けたシードグリフォンが、商店区の至る所にはびこる邪鬼に狙いを定める。 「雑魚は任せろ、ソニックヒールッ!!」 空弥の意志を受け、シードグリフォンの踵に飛び出した爪が風を纏う事でその鋭さを増す。 『受けよっ!ソニックブレイド・ダンスッ!!』 商店区の中央に着地したはずのシードグリフォンの姿が、霞のように掻き消える。 次の瞬間には全ての障害物を流れるようにして避けた風が、全ての邪鬼を切り裂いていく様な光景が展開される。 超高速で、尚且つ街を一切傷付けないように移動したシードグリフォンが、踵の爪から放った真空波で邪鬼を倒していったのだ。 ものの数秒の間に鎧鬼を除いた全ての邪鬼が、八雲学園から姿を消したのだった。 「な、なんだっ?!」 『新しい幻獣勇者・・・』 一瞬にして戦場に現れ邪鬼を一掃したシードグリフォンに、竜斗達の視線が集中する。 「すごい、あれだけの邪鬼を一撃で」 「は、速くて見えませんでした」 黄華や碧も、その戦闘力の高さに唖然とするばかりだ。 「今は驚くよりも先に敵を、空のは私達が引き受けます」 シードグリフォンから発せられる鏡佳の声を聞き、竜斗がもう一度驚き直ぐに我を取り戻す。 「おまっ、双御沢か? ・・・わかった、下のデカブツは任せろっ!!」 応えた竜斗は翼の鎧鬼を相手にしていた空中から一転、街中で暴れる鎧の鎧鬼へと向き直る。 「黄華、この間の連携攻撃で行くぞっ!」 「うんっ! いっけぇーっ!!」 シードユニコーンのライトニングホーンが鎧の鎧鬼の装甲に一点集中の衝撃を与え、そこにロードエスペリオンの放つ紅月流・月波が炸裂する。 それを尻目に、シードグリフォンは翼の鎧鬼を追って上空へと駆け上がる。 『観念しろ! このシードグリフォンの前では、天にも地にも逃げ場は無いっ!!』 翼の鎧鬼は逃げたのか攻撃のためか、シードグリフォンとは逆方向へと加速する。 「ほう、俺達を相手に速さで勝負するか」 「そんな速度じゃ、私達からは逃げられない」 翼の鎧鬼に知能があれば、間違いなく目の前で起こった現象が理解できず困惑しただろう。 確かにシードグリフォンよりも先に、シードグリフォンとは逆方向に飛び出した翼の鎧鬼。 だがシードグリフォンは翼の鎧鬼の前≠ゥら現れ、翼の鎧鬼と擦れ違う。 「グランクローッ!!」 鏡佳の叫びに、シードグリフォンの脚に岩が固定されて三つの巨大な岩の爪を形作る。 『砕けっ!グランドスラッシュ・ザンバーァァッ!!』 サッカーの様に蹴り抜けれた巨大な爪は、まさしく三振りの巨大な刃の如く、鎧鬼の左右の翼と身体を切り裂く。 「これで、トドメッ!!」 鏡佳はもう片足の岩の爪を蹴り抜き、翼の鎧鬼を横にも四等分する。 『「「聖なる天地を汚す者よ、その愚かさを嘆いて闇へ還れ」」』 岩の爪を解き、シードグリフォンは随分と離れてしまった八雲学園へと向き直る。 「早く戻ろう、まだ気配が消えてない」 「いや、消えていないのはこっちも同じようだ」 元の戦場に飛び出そうとした鏡佳を制し、空弥がバラバラにした翼の鎧鬼を一瞥する。 振り返れば、そこにはバラバラに分解されてなお、空中に浮遊したままの鎧鬼の鎧が視界に飛び込んでくる。 『中身は死んでも、鎧は生きているということか』 「それならっ!」 「鎧も砕くまでだっ!!」 複数の対象を破壊するため、シードグリフォンがソニックヒールを発動させる。 だが鎧鬼はシードグリフォンが動くよりも速く転送され、その場から姿を消す。 「消えた・・・?」 『回収されたか、それとも・・・・』 「・・・もう一体の・・所?!」 結論に行き着いた瞬間、シードグリフォンは最大速力で八雲学園へと向かう。 八雲学園まで僅か数秒。だが到着した八雲学園では、同じくバラバラになった鎧の鎧鬼のパーツが翼の鎧鬼のパーツと一箇所に集まって空中に浮かんで行くところだった。 そして未だ上空に存在し続けていた黒雲から、新たな邪鬼が10体近く飛来し二つの鎧鬼に喰われて行く。 10体近い邪鬼を喰らい、一つの身体を再形成した鎧鬼は背に翼を持つ凶悪な鬼≠フ姿を現した。 「ウグガゴアァァァァァァァッ!!」 獣よりも凶悪で禍々しい咆哮を上げる合体邪鬼に、その場の誰もが身体を硬直させる。 「なんだよ、鎧鬼ってのは中身がいればいくらでも再生するのかよ?!」 「すごく禍々しい、怖い・・・・」 「コレが・・・邪鬼?!」 地上で合体する鎧鬼を目の当たりにし、竜斗達が口々に言葉を漏らす。 「だが何度再生しようと、また砕けば良いだけのこと」 「今度は、二度と再生できないくらい破壊するっ!」 合体邪鬼の後ろに回ったシードグリフォンが、グランクローを発動させ斬りかかる。 『グランドスラッシュ・・・・っ?!』 グランクローが空中を空振りし、シードグリフォンの背後に合体邪鬼が現れる。 「ソニック・ダンスッ!!」 合体邪鬼の豪腕が振り下ろされる瞬間、機転を利かせた空弥がグランクローを解除して風を纏う高速移動で難を逃れる。 「大きくなったのに、私達より速いなんて・・・・」 自分たちを翻弄する合体邪鬼の速度に、鏡佳も驚愕の表情を見せる。 しかし、まだ幻獣勇者の攻撃は続く。 『捕らえよ、ライトニングアンカーッ!!』 シードペガサスに乗って合体邪鬼の上取ったシードユニコーンが、左腕を変形させた大型アンカー、ライトニングアンカーを飛ばす。 『逃がさないわよ、セイント・ディメンジョンッ!!』 それに合わせて放たれるシードペガサスのセイント・ディメンジョンが逃げようとする合体邪鬼を覆い、シードユニコーンのアンカーも捕らえると同時に雷の結界を展開しその動きを封じる。 そして二重の拘束に囚われた合体邪鬼の前に、ロードセイバーを振りかぶるロードエスペリオンが飛び出す。 「コレでも喰らえっ!!」 『「ローォォドッ! クルスノヴァァァァッ!!」』 合体邪鬼に叩き込まれる十字の斬撃、しかしそれも甲高い金属音を響かせるだけに終わってしまう。 「グルルルルゥゥゥゥ・・・」 渾身の力で振るわれたロードセイバーは、二重の結界の中で微動だにしない合体邪鬼の装甲に傷一つ付けてはいなかった。 「そんな・・・・」 『全く通じないのか?!』 必殺の一撃をあっさりと止められ、竜斗とロードエスペリオンに絶望の色が見え始める。 「ウガァァァァッ!!」 技を放った直後の硬直状態のロードエスペリオンを、合体邪鬼の豪腕が襲う。 「うわぁぁっ?!」 『ぐうぉぉっ?!』 咄嗟の判断でロードエスペリオンがロードセイバーを構え直し、直撃だけは免れたがその身体は八雲学園付近の海面へと叩き付けられる。 「竜斗さんっ?!」 「お兄ちゃんっ?!」 海中へと消えるロードエスペリオンに、碧と黄華が悲鳴に近い声を上げる。 だが戦況は仲間を心配していられる程余裕はない、二重の拘束を振りほどいた合体邪鬼は既にシードペガサス達の真横で腕を振りかぶっている。 『ウイング展開ッ!!』 シードペガサスは片側のセイントウイングからフェザーを射出せずに、翼で障壁を作ることで何とか合体邪鬼の攻撃を受け止める。 「ホーンセットッ!」 『「ライトニングゥッ! ランサーァァッ!!」』 シードペガサスが翼を羽ばたかせる事で合体邪鬼の腕を弾くと、続けざまにシードユニコーンのライトニング・ランサーが突き出される。 それでもライトニングランサーは合体邪鬼の身体に届かない。 残っていたもう片方の腕に掴まれ回転も止まり、それ以上進むことも引くことも出来なくなってしまう。 『コレでもダメなのかっ?!』 「ペガサスさん!」 『フェザー発射ッ!!』 碧の意図を察してシュートフェザーをピンポイントで指や手首の関節に打ち込むシードペガサス、その判断の速さが辛くも碧達を攻撃から護った。 シードペガサスが僅かに合体邪鬼から離れた瞬間を狙って、無数の拳大の礫がシードグリフォンの風によって打ち出される。 「今の内に、離れてください」 シードグリフォンの時間稼ぎで、何とか脱退邪鬼と距離を取ることに成功する碧達。 「ありがとうございます、助かりました」 「でも、攻撃が全然通じないなんて・・・・」 シードグリフォンと並ぶシードペガサスとシードユニコーン、そこには次の行動を決めあぐねいているといった雰囲気が漂っている。 攻撃は通用しない、防御も何時まで保つか解らない、状況としては最悪だ。 だがそんな中で、空弥だけが表情一つ崩さずに口を開いた。 「ヤツは合体して強力になったのだろう? ならば・・・・」 言っている間にもシードグリフォンの全身から、おびただしい量の風があふれ出してゆく。 「俺達も合体すれば良いだけの話だ。やれるな、グリフォン」 空弥の発するそれは質問ではなく確認、出来ると信じて疑わない者の口振りだ。 『主が望むのならば、我はそれを実行するまでだ』 『ですが、私達の主は武装獣とは契約していません!』 言外に出来ると言ってのけるシードグリフォンに、シードユニコーンが抗議の声を上げる。 「無いもの強請りをするわけではない、今ここにいる者でも十分だろう?」 シードグリフォンノ瞳を通じて、シードペガサス、シードユニコーンを見る空弥。 『アタシ達で合体しようって言うの? また大胆発言ねぇ』 「でも、もし出来れば勝てるかも知れません」 空弥の自信に満ちた視線に、賛成の意を示す碧とシードペガサス。 「前にお兄ちゃんが言ってた、幻獣は人の願望を具現させるモノでもあるって」 『・・・レディが望むのでしたら、いえ、レディが望んでくれさえすれば私はどんな姿でも進化して見せます』 黄華の言葉にシードユニコーンの決意。 仲間のやり取りを見届けた空弥は、口許を僅かに緩めて言う。 「決まり、だな。鏡佳、お前も大丈夫だな」 最後に空弥は、自分と共にシードグリフォンに融合している鏡佳へと確認を取る。 「はい、コレは私が望んだ戦いだから」 同時に融合する事で空弥の中に流れてくる鏡佳の想い、そして鏡佳もまた空弥の心を感じる。 (鏡佳、お前はお前の本当に望むモノの為に我侭になれ。俺はそのために存在している) (兄さんが、まだ顔も見ていないあの人達を信じようとしてる。だから、私も信じる、信じて戦う!) 空弥の、鏡佳の、望む力がどんどん高まってゆく。 「ウグゥオォォォォォォッ!!」 鏡佳達の持つ雰囲気に危険を感じたのだろう、合体邪鬼がシードグリフォン目掛けて突進する。 シードグリフォンと合体邪鬼がぶつかる直前、海面から伸びた何かがその身体を絡め取る 『ロードアンカーッ!!』 海中から現れたロードエスペリオンの両腕の爪、それがワイヤーを伸ばして合体邪鬼の身体を絡め取ったのだ。 「今日は珍しく俺が囮だぜっ!」 『策は聞いていた、時間はワタシ達が作る。うおぉぉぉぉっ!!』 ロードエスペリオンがロードアンカーを振り回し、お返しとばかりに合体邪鬼を海面に叩きつける。 「へっ、パワーなら負けちゃいねぇぜ。急げよっ!!」 海面に叩き付けた合体邪鬼の上に飛び掛り、ロードエスペリオンが追い討ちを掛ける。 「コレで全ての条件は満たした、後は成功させるだけだ」 空弥が告げ、他の皆が静かに頷く。 (ずっと独りだった私に、もう一度友達の暖かさと優しさを思い出させてくれた竜斗さん。私はそんな竜斗さんを護る盾になりたい) 碧の中の戦いに対する優しくて強い想いが、踏み出す勇気を、歩み寄る最初の一歩をくれる。 (強さって何なのかまだ良くわからないけど、絶対お兄ちゃんとの約束を果たすんだ。アタシにはこんなところで立ち止まってる暇なんて無い!) 黄華の真っ直ぐな、ただひたすらに真っ直ぐな想いが、目標へと真っ直ぐに突き進む力をくれる。 (もう見ているだけは嫌だ、私も自分で行きたい所に、会いたい人の許に走っていくんだ!) 鏡佳の純粋に先を目指す想いが、心から望むモノの所へ、本当に大切なモノの所へと駆ける強さをくれる。 (それが、キーワードか。導くのは俺の役目のようだな) 空弥の中の何かが、空弥に新たな呪文を告げる。 「いくぞ、全員俺に続けっ!トライエレメンタル・ユナイトッ!!」 シードグリフォンから溢れ出した風が、シードペガサスを、シードユニコーンを、そしてシードグリフォン自信を包み空へと舞い上がる。 舞い上がった三体は、それぞれが一度幻獣形態へと変形し、フォーメーションを取る。 シードグリフォンからは頭部と翼が、シードペガサスからも翼が分離し、それぞれ獣の脚部を収納する。 グリフォンは人型への変形同様、上半身を前に倒し下半身を下にスライドさせる。 前足は肩のパーツに爪を残して収納され、人型時の腹部から下が完全に左右に分かれ、人型時の胸を腰にする大きな人型の脚部になる。 スライドした人型時の脚部は、更に中心から上下左右にスライド展開し開いた箇所から鋭い爪の様な爪先と踵が現れる。 ペガサスとユニコーンは背中合わせに並び、上半身を人型時のように倒し下半身同士が接続される。 左右に合体したペガサスとユニコーン、巨大な下半身に変形したグリフォンが上下に合体する。 ペガサスとユニコーンが接続されている部分、人型で言うと胸に当たる位置にグリフォンの頭部が、背にグリフォンの翼が、後ろ腰にペガサスの翼が装備さる。 そして、右のユニコーン、左のペガサスの首許が展開し、人型の腕が伸びて力を込めて拳を握る。 最後に新たな人型の頭部が現れ、その瞳に7人分の心が一つの光を灯す。 『『『騎獣合心・・・・』』』 3体の幻獣の声が重なり、2対の翼が神々しく羽ばたかれる。 『「「「「シーィィドォッ! カイザーァァァッ!!」」」」』 4人の勇者と3体の幻獣の心と身体が一つとなり、全てを護る獣の騎士。 今ここに、新たなる歴史を記す幻獣勇者が誕生した。 「スゲェ、スゲェぜみんな・・・・」 『コレが幻獣勇者の可能性か・・・・』 合体邪鬼を足止めし、全身にダメージを負ったロードエスペリオンが海面からシードカイザーを見上げえる。 『待たせたな。さぁ、今度は我等が相手だっ!!』 ロードエスペリオンによって海面に押さえられていた合体邪鬼が、シードカイザーの姿に一瞬たじろぐ。本能的に力の差を感じ取ったのだろうか。 だがそれもつかの間、合体邪鬼はすぐさまシードカイザーへと近付きその豪腕を振るう。 「そんな攻撃は、私達には届かない」 涼しく言い放つ鏡佳、そしてギャギャギャギャギャッ! と激しい音を立ててシードカイザーに当たる前に見えない何かに阻まれる合体邪鬼の腕。 見えない何か、その正体は風だ。シードカイザーの全身を超高速で高密度の風が渦巻いて、攻撃を遮断しているのだ。 恐らく生半可な装甲ならば、それだけで逆に攻撃した方が破壊されかねない。 「さっきのお返しよ、ユニコーン・ヴォルテックスッ!!」 シードカイザーの右肩になっているユニコーンの頭部が、肩から分離し腕に装着される。 『ライトニング・アァァァップ!!ッ』 ユニコーンの角、回転するドリルが放電しその大きさが一回り程巨大化する。 そして巨大化したユニコーン・ヴォルテックスは、易々と合体邪鬼の装甲を貫く。 「はぁぁぁぁっ!!」 黄華の気合と共に放電の勢いを増したユニコーン・ヴォルテックスが、合体邪鬼の右腕を消滅させる。 「グゴゥオォォォォッ!!」 合体邪鬼は無くなった右腕の部分を押さえ、苦しそうな雄叫びを上げる。 「逃がしません、ペガサス・フェザーッ!」 後ろ腰に装備されたペガサスの翼から数枚の羽が放たれ、合体邪鬼の周囲に魔法陣を描く。 『カイザー・ディメンジョンッ!!』 「ガギギギギギィッ?!?!」 魔法陣はセイント・ディメンジョンを遙かに越える拘束力で、合体邪鬼の動きを完全に封じる。 その戦闘力は圧倒的、先程までの合体邪鬼と幻獣勇者の比ではない。 「さぁ、トドメだっ!」 空弥の言葉に全員が頷き、空中に捕らえられた合体邪鬼から距離を置く。 再びユニコーン・ヴォルテックスを構え、全身を目視できるほどの密度の風が纏う。 背と腰の翼は後ろに広げられ、完全な突撃体制で構えるシードカイザー。 『「「「「貫けっ!!ライトニングゥッ! ヴォルカニックランサーァァァッ!!」」」」』 超加速から放たれる竜巻の様な雷光の突撃は、合体邪鬼の真心を捉え貫通する事でその身体を完全に消滅させる。 『絶望すら許されぬ哀れな夢よ、我が希望にてあるべき場所へ還れ・・・・』 学園外へと戦場を広げた今回の戦闘は、三つの雄々しき咆哮によって終わりを告げたのだった。 <NEXT> |